研究概要 |
天然球状蛋白質群の「分子間相互作用形態」「相互作用ポテンシャルと蛋自質固有の機能との相関」「特異なサイト間相互作用を利した自己組織化機構」について,小角散乱法による解明に引き続き取り組みながら,今年度の重点課題として,人工赤血球として機能するヘモグロビン小胞体(HbV)の構造とダイナミクスについて小角散乱法と動的光散乱法の最新手法を適用して検討した。 HbV希薄分散液系の散乱光強度相関関数に対するORT分析(逆ラプラス変換法)から,体積分布に換算した平均流体力学直径238mmと標準偏差20nmを得た。また,Hbを内包しないモデル系であるベシクル分散液の小角散乱データに対するIFT分析(逆フーリエ変換分析)によって膜中の電子密度プロファイルをモデルフリーに評価し,脂質膜内部構造の詳細を明らかにした。HbVの散乱曲線小角部分は動的光散乱の結果と相補的に平均半径120nmの多分散球の散乱関数によって説明出来るが,広角部分にはHbV内部の電子密度揺らぎに起因する余剰散乱が観測される。ここに見出されたHb間相互作用ピーク(構造因子ピーク)の位置,高さ,広がりを検討から,HbV内水相中のHb間相互作用ポテンシャルは内水相への閉じ込め効果をほとんど受けておらず,バルクHb溶液中とほぼ同一であることを確認した。濃厚HbV分散液に関し,特殊な超薄膜セルを用いて多重散乱の影響を除去し,希釈無しにHbV粒子の拡散ダイナミクスの観測に成功,また,マルチスペックル観測によって各種水溶性高分子(代用血漿剤)の存在下で誘発される小胞体間の親和相互作用に関する知見を蓄積した。今年度の取り組みによって,「溶液科学・コロイド/ソフトマター物理学」と「生体医工学(特に医療応用に特化したナノ材料)」の異分野間で知見を相互フィードバックする展開の布石となる研究を進展させることが出来たと考える。
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