研究概要 |
熊野トラフ東部深海底から採取された音波探査記録と堆積物コア試料を用いて,海水準変動に応答した堆積場の変化を検討した.また,同堆積物試料の有機炭素量と安定炭素同位体比および有機物の蛍光顕微鏡観察に基づいて,海水準変動と堆積物の起源,すなわち堆積物運搬過程の変化も合わせて検討した. 音波探査記録では海底斜面に発達した海底谷開口部に相当する陸棚斜面近傍において,後氷期の高海水準期にも陸側から海側への堆積物移動を示す構造が認められ,同地点で採取された堆積物には高海水準期にも連続的にタービダイトが堆積していた記録が確認された.これに対して海底谷開口部から離れた海盆底の海底扇状地では,海水準上昇初期にはタービダイトが認められるが,高海水準期には認められなかった.これらの結果から,深海底堆積物の堆積場は海水準上昇初期までは海盆底の広範囲にあったが,海水準上昇にともなって次第に陸側へ縮小し,高海水準期になると陸棚斜面近傍に限定されるようになったことが示された.また,堆積物の起源を検討した結果,海水準上昇初期の海盆底堆積物は陸源有機物に富むことから海底谷を通じて陸域から運搬されたと推定されるが,高海水準期の斜面近傍堆積物は陸源有機物の割合が低いことから陸棚斜面堆積物の再移動によって形成されたと推定される.すなわち,海水準変動は深海底での堆積過程と保存される有機物の起源を変化させたと考えられる. 一方,海水中を運搬される有機物と堆積物に保存される有機物の関係を検討するため,同海域に係留されたセディメントトラップ試料の有機物を蛍光顕微鏡で観察し,堆積物のそれと比較した.この結果,セディメントトラップ試料の有機物組成は,現在の深海底表層堆積物の有機物組成と類似し,陸源有機物に乏しいことが確認された. 以上の成果の一部は,2007年9月に札幌で開催された日本地質学会第114年学術大会で発表した.
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