研究概要 |
18年度に引き続き、フェレドキシン型[4Fe-4S]クラスターを用いた反応を検討した。 我々が独自に合成した、全ての鉄がFe(III)の状態にある[4Fe-4S]アミドクラスターをナトリウムナフタレニドで化学還元し、高電位鉄硫黄タンパク(HiPIP)と等電子構造の[4Fe-4S]アミドクラスターを新たに合成した。これに嵩高いチオール類を作用させるとアミド基がチオラートヘと置換され、HiPIPのモデルとなる一連のクラスターが簡便かつ選択的に得られることを見いだした。また、得られたHiPIPモデルクラスターは、1,2,4,5-テトラメチルイミダゾールを加えるとジスルフィドを遊離しながら反応し、四つある鉄のうち三つにチオラートが、残る一つにイミダゾールが結合した[4Fe-4S]クラスターを与えた。このクラスターは、[NiFe]ヒドロゲナーゼのタンパク中でcyt-cとの間の電子移動に関わる、distal-[4Fe-4S]クラスターの構造を再現する初めてのクラスターである。得られたクラスターの電気化学的性質を調べたところ、一般的なフェレドキシン型[4Fe-4S]クラスターよりも電子を受け取りやすいことが明らかになった。 今回達成した選択的な配位子置換反応の鍵は、高い酸化状態にあるHiPIP型クラスターを前駆体に用い、これが還元的にジスルフィドを放出して安定な酸化状態になることを駆動力としたことであり、触媒機能とは直接の関係性がないものの、酸化状態を高めて活性化したフェレドキシン型[4Fe-4S]クラスターを用いることの合成化学的な有用性が示された結果といえる。
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