研究概要 |
本研究では,温度,pH,イオン強度,光などの外部刺激に応答して,多段階に会合状態の変化する水溶性のブロック共重合体を精密ラジカル重合で合成して,外部刺激に応答した会合挙動の変化を調べることを目的とした。 ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)は室温ではポリマー側鎖のアミド基と水の水素結合により,水に溶解するが32℃より高い温度で水素結合が壊れるため,疎水性相互作用による脱水和で,相分離を起こすことが知られている。この温度は下限臨海溶液温度(LCST)と呼ばれる。温度刺激応答性のPNIPAMを可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT)型のリビングラジカル重合により合成した。さらにこのPNIPAMを高分子型の連鎖移動剤として用いることで,pH応答性のアクリル酸を重合して,水中で温度とpHの刺激に応答して会合挙動の変化するブロック共重合体(PNIPAM-b-PAA)を合成した。NIPAMおよびアクリル酸のRAFT重合におけるモノマーの転化率と分子量の関係を調べたところ,この重合はリビング的に進行して構造の制御されたブロック共重合体を合成できることを確認した。PNIPAM-b-PAAは室温でpH5以上の水に溶解したが,温度を上昇するとLCSTを示して沈殿を生じた。また水溶液のpHが5より低い場合,LCSTの低下が観測された。酸性ではPAAブロックのカルボキシル基がプロトン化してカルボン酸を生じる。このカルボン酸がPNIPAMブロックのアミド基と水素結合をするため,LCSTが低下したと考えられる。 本研究では,このようにpHおよび温度の2種類の外部刺激に応答して会合状態の変化する水溶性ブロック共重合体を合成した。このような外部刺激応答性ブロック共重合体はドラッグデリバリーシステム(DDS)における制御放出システムのモデルなどとして応用できると期待される。
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