研究概要 |
長さの異なる直鎖アルキル基を導入したテトラセン分子の固体状態での色調は,炭素鎖の長さが1と3と5でオレンジ色,2と4で黄色,4と6で赤色であり前年度において合成とX線結晶構造解析を終えた。固体の色調の変化を理解するために,理論計算による評価を行った。結晶構造から得られた分子の座標を用いてZINDO計算を行い,分子の最低エネルギーの算出と遷移双極子モーメントの評価,および結晶構造から20オングストローム以内で隣接していて遷移双極子モーメントが互いに平行関係にある分子の立体関係を調べ遷移双極子モーメント間の距離と角度からエネルギーシフトを算出し分子間相互作用の評価を行った。ZINDO計算の結果はアルキル基のコンフォメーションの違いにより分子の色調が変わることを示した。これはアルキル基とテトラセン環のσ-π相互作用が効いていると考えられる。しかし,厳密に見れば固体の色と分子の最低励起エネルギーとの対応はよくなかった。そこで補正項として前述の分子間相互作用によるエネルギーシフトを分子の最低励起エネルギーに加えた。その結果実際の固体の色調と良い対応が見られた。以上のことより,アルキル基の長さにより固体の色が変わる原因は,特徴のあるコンフォメーション由来の分子の性質とその分子がもたらす個性的な分子配列により分子間相互作用が異なることにより生じること,を突き止めた。
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