研究概要 |
本研究は、ポルフィリン近傍に種々の置換基を導入し、水中で酸素配位できるヘムを合成するとともに、その酸素結合能と置換基構造の相関を解明することを目的とする。平成19年度は、(1)ヒト血清アルブミン(HSA)に合成ヘムを包接したアルブミンーヘム複合体(HSA-FeP)を合成し、ヒスチジンの塩基性、立体障害を利用して酸素結合能を制御することができた。また、アルブミンとヘムの複合体の人工酸素運搬体への応用を検討する過程で、(2)表面をポリエチレングリコール(PEG)で修飾したHSA-FeP(PEG(HSA-FeP))水溶液を乾燥させたフィルムが酸素を結合解離できることを明らかにした。これは人工酸素運搬体の新しい形態になりうる。 1.ヒスチジンの塩基性、立体障害を利用して酸素結合能を制御したヘムの合成 ヒスチジン(His)にメチル基を結合した誘導体(1-メチルヒスチジン(1-MHis)、3-メチルヒスチジン(3-MHis))を軸塩基配位子として導入したヘム(FeP)を合成した。HSA-FeP(His), HSA-FeP(1-MHis), HSA-FeP(3-MHis)の酸素親和度はそれぞれ3 Torr,22 Torr,1 Torrであった(pH 7.3,37oC)。これは、軸塩基配位子の塩基性や立体障害により酸素解離速度が変化したためである。 2.PEG修飾アルブミンーヘム薄膜の酸素結合能 PEG(HSA-FeP)水溶液をガラス板上で乾燥させると、均一な赤色薄膜が得られた。酸素を通気すると、薄膜の可視吸収スペクトルは速やかに酸素錯体型へ移行し、その酸素結合解離は可逆的であった。得られた薄膜は、水に再溶解するだけでなく、アルコールやクロロホルムにも溶解し、HSAの二次構造および酸素結合能は保持されていることを明らかにした。
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