研究概要 |
表面における樹枝状島はフラクタル性を持ち,バルク表面にはない物性や表面反応性を示すことが期待されている.樹枝状成長は拡散律速凝集モデルで説明されているが,フラクタル性の起源は必ずしも明らかになっていない.本研究は,走査トンネル顕微鏡を用いた原子追跡法とモンテカルロシミュレーションによりIr(111),Pt(111)表面におけるAuの拡散係数とAu2次元島のフラクタル性の起源を明らかにすることを目的とした.本年度は,前年度に開発した原子追跡装置の動作確認と,シミュレーションによる拡散係数の解析を行った.Si(111)-7x7表面の単原子層高さのステップ付近でチップを旋回させ,ロックインアンプにより検出したトンネル電流の位相からステップの方向を判断し,ステップの方向にチップを動かすことに成功し,原子追跡に必要な時間・空間分解能を持つことを確認した.また島の外周に沿った拡散を取り入れた薄膜成長のモンテカルロシミュレーションプログラムを開発し,走査トンネル顕微鏡による測定で得られた島の形状をシミュレーションの結果と比較することにより,島の外周に沿った拡散(エッジ拡散)の拡散障壁を解析した.Ir(111)表面に作成したAu島のエッジ拡散の障壁が1層目では0.5eV,2層目以降では0.25eVであり下地依存性があることを明らかにした.またシミュレーションにより,エッジ拡散障壁に対して島のフラクタル次元が1.7から2へ連続的に変化することを見出し,エッジ拡散障壁の値が大きくなると島にフラクタル性が現れることを明らかにした.さらに島の成長確率が粒子濃度勾配のべき乗で与えられるとする一般化拡散律速凝集モデルを用いて,フラクタル次元の連続的な変化を説明した.
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