研究概要 |
本研究の目的は,多結晶性強誘電体の材料非線形問題に対す数値解析手法の開発であり,最終年度である本年度の研究により,申請当初の目的をほぼ達成できた。すなわち,1.熱力学的に素直な示量性状態量を独立変数とする,従来とは異なる有限要素定式化を示し,それゆえ2.固体の相転移の現象論的記述として固体物理学で一般なランダウ流ポテンシャルを,構成則に採用できるようになった。これにより,計算力学分野の手法と固体物理学の手法の接続が容易化し,さらなる研究展開-たとえば,量子力学や統計力学とのマルチスケール的な接続や,塑性論の強誘電材料への流用-が期待できる。 本年度は昨年度の研究で未解決であった以下の2点を中心として研究を実施した。 1.ランダウ流ポテンシャルの高精度化:文献調査により,チタン酸バリウム単結晶について,実験的に同定されたポテンシャル関数の展開係数を得た。これにより,計算結果の議論が行い易くなった。一方で,実験的な材料係数の同定の困難さに気付いたことから,今後の研究展開の1つの方向性を得た。 2.動的モデリング:強誘電体の材料非線形性は,結晶対称性の破れに由来する相転移(ドメインスイッチング)に起因し,これの現象論的モデリングにランダウ流ポテンシャル(極小点が複数ある疑似自由エネルギ)を使うわけであるが,これは構造力学で言うところの飛び移り座屈を構成則レベルでモデリングしたものと見なせる。よって,動的な取り扱いがより本質的であるとともに,解の多価性を正面から考慮する必要がなくなるので数値計算上も楽になる。ドメインスイッチングには緩和現象が観測されている事実から,ランダウモデルの構成則にデバイ型の緩和を加えた。なお,時間積分法には平均加速度法を用いた。 以上より,多結晶強誘電問題の巨視的非線形挙動を破たんなくシミュレーション可能となった。
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