研究概要 |
超微小薄膜構造を持つ機能性材料の強度および機能性の低下機構を明らかにすることを目的とし,ナノスケール微小薄膜(一層/多層)構造を持つ強誘電体・強磁性体材料について,変形を受ける場合(機械的拘束条件)における原子構造の不安定性ならびに電気的・磁気的機能の不安定性を第一原理量子力学解析により検討した.本年度は強誘電体PbTiO_3の応力誘起ドメインスイッチングについて第一原理分子動力学シミュレーションを実施し,90度ドメイン壁移動の臨界せん断応力を定量的に評価(約150MPa)するとともに,Pb-O結合の再構成がドメインスイッチングを生じさせることを明らかにした.また,大規模な分子動力学シミュレーションのために必要な経験的シェルモデル原子間ポテンシャルを,第一原理解析結果にフィッティングすることにより構築した.得られたポテンシャルは,Pb(Zr,Ti)O_3の構造および弾性係数などをよく再現し,機械的特性のシミュレーションが可能であることが示された.磁性材料については,非金属基板上のニッケル鉄薄膜について,界面せん断強度の第一原理解析を行った.界面原子層の構造はスピン分極によって安定化されており,ずれに対するエネルギー障壁は高いが,隣接層のずれは分極の急激な変化を伴わず比較的小さなエネルギー障壁を持つことがわかった.さらに,薄膜や基板材料としてよく用いられる半導体材料について,ナノ多層膜で問題となる多軸応力下の限界応力を評価するため,臨界せん断応力(線断理想強度)に及ぼす垂直応力の影響を第一原理計算によって求めた.その結果,半導体結晶では垂直応力の影響は材料によって異なり,例えばシリコンやゲルマニウムでは静水圧圧縮応力がせん断理想強度を低下させることがわかった.
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