研究概要 |
通常の放電加工は油または水などの加工液中で放電を発生させて除去加工を行う.それに対して本研究の代表者は,加工液の液面(すなわち気液界面)で放電を発生させると荒加工の条件でも短時間で表面粗さが低下し,光沢のある特徴的な加工面が得られることを見出した.本研究はこの現象を利用して仕上げ加工工程を大幅に短縮することを目指すものである.本年度は本加工法を実用化する場合の課題として,加工中の極間距離および加工の安定性を支配する因子を明らかにすることを目的として研究を行った. まず,加工中の極間距離について調査した.本加工法では液中放電から気中放電に移行すると主軸が上昇する現象がみられ,極間距離が増大し続けることが不可解であった.そこで,工具電極および工作物の温度測定を行い,それぞれの熱膨張量を見積もった結果,主軸の上昇量は工具電極と工作物の熱膨張量の和と同程度であることがわかった.したがって,極間距離は増大し続けるのではなく液中放電の場合と同程度に保たれていることがわかった.また,本加工法では通常の気中放電よりも極間距離が大きく保たれていることが短絡を防止して加工を安定に維持することに寄与していることがわかった. 次に,工作物材料,加工雰囲気(加工液および気体の種類),極性などを様々に変えて実験を行い,気中放電に移行した後の加工の安定性を放電電流波形および極間電圧波形から考察した.その結果,鋼を陰極として油中放電を行った後に加工油の分解生成ガス中または窒素中での気中放電に移行した場合は加工が安定であるが,気中放電時の加工雰囲気に酸素が存在する場合は移行後しばらくすると加工が不安定になることがわかった.この結果から,油中放電により鋼陰極の放電面に形成された白層の電子放出能が気中放電の安定性に重要な役割を果たしていることが推定された.
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