研究概要 |
粘弾性体を含む流れ解析の準備として,まず,粘弾性流体解析のための計算手法の開発を行った。稲室ら(2004)が提案した高密度比の二相系格子ボルツマン法(LBM)にバネとダッシュポットを直列に組み否わせたマクセルモデルに基づく効果を導入した。構築した手法の妥当性を確認するために,平行平板間のせん断流れならびに浮力で上昇する単一気泡の挙動解析を行った。特に,後者の問題では,他の研究例で報告されているカスプ形状(上昇気泡の後部に見られる先端が尖った形状)が確認ざれ,理論的な予測値とも良く対応する結果が得られた。次に,粘弾性を表現するためのモデルを構築した。本研究では,上記の手法にケルビンモデルに基づく弾性力項を導入し,赤血球に代表されるような粘弾性皮膜構造を有する固体を含む流れ解析のための新しい計算手法を構築した。最初に,粘弾性皮膜部分の物理モデルとして並進方向のバネの導入を行った。この効果を上記二相系LBMに組み込むためには,例えば格子点上への弾性力の補完操作などいくつかの工夫が必要であったが,最終的に二次元計算用のコードの作成を行った。種々の計算を実行した結果,既存の実験的研究で報告されているせん断流れ中のTank-Tread運動や血流中の赤血球の挙動に見られる管軸集中現象などが再現され,本手法の妥当性が定性的に確認された。さらに,並進方向に加えて回転方向の弾性力の作用するように曲げを表現できるバネモデルを導入し改良を行った。その結果,せん断流れにおける弾性体の変形度に関して,他の研究成果と定量的に一致する結果が得られた。 なお本研究で得られた成果は,今後,三次元計算コードへの拡張やマイクロスケールの血流解析を行う上での基礎データとして重要な意味を持つものと考えられる。
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