研究概要 |
本研究では,肢体不自由者の飲料物啜り飲みに対する適切な介助動作の究明を目的として,カップの軌道および口との接触力に注目し,解析を行った.まず肢体に障害を持たない被験者について,啜り飲み動作におけるカップの軌道特性について調べた.被験者には,把持したカップを口元まで接近させて,カップ内の飲料物をひと口飲み,机の上に置くように指示を出した.その結果,把持したカップは口元に接触する前から予め傾いた状態になっており,接触後においてもカップの傾き動作は連続的に行われ,滑らかに口とカップとの接触動作を行っていることが明らかになった.この連続的で滑らかな接触動作を遂行するためには頭部の動きが重要であり,カップの傾き角度を入力,頭部の傾き角度を出力としてARXモデルで近似を行い,カップの傾きに頭部の動きが深く関与していることを示した.一方,肢体不自由者においては,啜り飲み動作の大切な要素となっている頭部の傾き動作が困難な場合があり,さらに飲料物がこぼれないように介助動作を行う必要がある.そこで,熟練介護士による被介護者の啜り飲みの介助動作について調べた.その結果,熟練介護士はカップと被介護者の口との接触力をやや強めにし,押し付け力を保持した上で,カップを傾けて啜り飲み介助を行っていることが見出された.この力は,自分でカップを把持して口元に接触させる場合よりも明らかに大きい.一方,被介護者への聞き取り調査を行った結果,接触力が弱いと不安を感じ,逆にやや強めの押し付け力を与えた方が飲みやすくなる傾向が見られた.さらに,介護士はひと口の量が少なくなるように,カップの傾き動作を行っていることを明らかにした.
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