研究概要 |
本研究の最終目的は,液相中に存在する全イオン,および固相に存在する全水和物の炭酸化時の挙動を,反応速度論に基づいたモデルにより再現することにある。本年度はこれの基礎モデルにあたる,模擬細孔溶液(NaOH溶液と固相物質としての水酸化カルシウムにより構成される)中への炭酸ガス溶解速度モデルの高精度化を行った。 モデルの具体的な改良点としては,文献調査によって水のイオン積・炭酸の解離定数・水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムの溶解度積・Bunsenの吸収係数といった平衡定数の温度依存性を把握・導入し,化学反応の計算において活量を用いた(活量係数の推定にはDaviesの式を用いた)。また炭酸種(溶存C0_2,HC0_3^-,C0_3^2-)それぞれに拡散係数を与えた。これらによって,模擬細孔溶液中への炭酸ガス溶解モデルの精度および信頼性が大きく向上し,基礎モデル構築に関してはほぼ完了した。また,より詳細かつ正確な,炭酸化によるセメント水和物の分解性状の解析が可能となった。 さらに,溶液中への炭酸ガスの溶解に関して,一般的に用いられる平衡モデル(気相と液相のCO_2は瞬時に平衡に達するとの前提に基づいたモデル)と,構築した速度モデルとの比較を行い,実環境濃度に近づくほど,平衡モデルにおける気相と液相のCO_2は瞬時に平衡に達するとの仮定が成り立たなくなることを確認した。これにより,平衡モデルに対する速度モデルの優位性の一つを示し,また速度モデルによって促進実験と実環境における炭酸化性状の相違を説明できる可能性があると考えられる。
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