研究概要 |
本研究では,非破壊検査の一つとして日常点検など多くの場面で使用される打音法の問題点を明らかにするとともに,その打撃音の定量評価に基づく異常診断法の精度向上を目的として,カオス時系列解析法を用いて再構成アトラクタの収束特性を評価し,鋼・コンクリート合成床版内部の剥離箇所検出の可能性を調査した.具体的には,大きさの異なる剥離モデルとして,2種類の合成床版のコンクリート内部に混入し,得られる打音データから再構成されるアトラクタの収束特性の評価に基づき,健全部と剥離モデルを有する部位を差別化できるかどうか確認した.結果として,合成床版の形式に関係なく,正常・異常を定量的に差別化し,提案手法の有用性が示された.本研究を通じて,得られた知見を以下にまとめる. 1.診断対象の構造的特徴,剥離モデルの大きさ,打撃音の測定条件によっては,周波数領域を調査するだけでは健全部と剥離モデルを有する部位を差別化できないことが明らかとなった. 2.非常に単純な計算である提案手法はFFTやWavelet変換では認識できなかった小さな剥離モデルに対して,剥離モデルの大きさや打撃音の測定条件に依存することなく,再構成アトラクタの収束特性・位相構造の違いを敏感にとらえ,健全部との差別化を図ることができた. 3.提案手法はおおむね剥離モデルの大きさに応じた定量的評価が可能であり,さらに,打撃音を観測する際のノイズに対して,非常に高いロバスト性を有することが確認された. 今後は打音を収録する際のサンプリング周波数の違いが結果へどのように影響するのか検討し,打撃音の時間周波数領域と再構成アトラクタの収束特性を同時に調査するアプリケーションソフトを開発する予定である.
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