研究概要 |
本研究は,河川流量・水質観測を通じて河川水中の全有機物および難分解性有機物の物質収支や時空間変動を把握し,土地利用・人口分布データとの比較によって流域の有機汚濁機構の推定を目指している.本年度は,以下の3点に取り組んだので,その成果を以下にまとめる. (1)渡良瀬川における難分解性有機物の流下量および物質収支の推定 難分解性有機物の濃度は,昨年度(横尾ら[2007])の結果を踏まえて採水100日後の全有機炭素濃度(TOC)であるとした.この濃度に,超音波式流向流速計(ADCP)で測定した河川流量を乗じて難分解性有機物の流下量を計算した.この流下量を渡良瀬川沿いの3地点で測定し,群馬県旧桐生市および栃木県足利市を対象として難分解性有機物の物質収支を計算した.その結果,旧桐生市より足利市の方が難分解性有機物を多く排出している傾向を初めて示すことができた. (2)流域人口と土地利用が難分解性有機物の流下量に与える影響の評価 互いに隣接した旧桐生市と足利市は土地利用状況も類似しており,両市の違いは人口に代表される.そこで,足利市の人口と難分解性有機物排出原単位の関係を求めた.この図は,足利市が目指すべき将来の河川水中の難分解性有機物濃度を設定すれば同市が許容できる人口を直感的に求められるものであり,環境を保全しながら同市が発展するシナリオ作りの基礎資料となり得る. (3)渡良瀬川下流域における有機汚濁機構の全体像の解明 今年度は,渡良瀬川下流域における有機汚濁機構の全体像を解明するには至らなかったが,河川中の全有機物および難分解性有機物の濃度は流域人口と関係している可能性を示した.これは,難分解性有機物は腐食植物などに由来するだけではなく,人間活動を通じても排出されることを示している.同様のデータを蓄積し,同流域の有機汚濁機構の全体像の解明に迫ることが今後の課題である.
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