研究概要 |
昨年度は,酸化反応による金属ナノ粒子の中空化現象を調査し,中空状酸化物の形成機構および形成条件を明らかにした。中空構造は内部に表面をもつためエネルギー的に準安定的な形態である.そのため,高温では内部の孔は収縮すると理論計算により予測されているが,実験的に観察された例はない.そこで,今年度は,中空状酸化物粒子が還元雰囲気に置かれたときの構造および形態変化について調査した. Cuナノ粒子を酸化させて得られる中空状Cu_2O粒子をTEM中の高真空下(5×10^<-5>Pa)で加熱し,形態変化をその場観察した.中空粒子の粒径および酸化物殻の厚さに依らず,200℃付近でCu_2OからCuへの還元反応が始まった。還元反応が始まる温度で粒子の収縮が観察された.還元反応の進行に伴い中空粒子は収縮し,元の緻密なCu粒子へと戻ることが明らかとなった。Cuナノ粒子の酸化および還元サイクルを繰り返し行うと,中実Cu→中空Cu_2O→中実Cuと可逆的に形態変化を繰り返す.また,還元反応の途中段階では,還元されたCu原子が,酸化物層の内側の表面で表面拡散し,Cu粒子を形成する.これは,酸化物中の酸素の外方拡散,すなわち,還元速度に比べCu原子の表面拡散が速いためである.中空酸化物粒子は,中心方向へ向かって均一に収縮するのではなく,元の中心位置から偏在して金属ナノ粒子へ戻ることがわかった. 原子拡散が活発に起こる温度では,中空構造を収縮させるような物質移動が起こる.これは,中空構造が余分な表面エネルギーをもつ不安定な形態であることに起因した,自己組織化現象である.
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