研究概要 |
研究の最終年度に当たる本年度は,主にアクチュエータの心臓部となる動力源すなわち水素吸蔵合金粒子充填層について着目し,(1)層内の移動現象解析,(2)炭素繊維ブラシによる伝熱促進を行った. (1)については,昨年度まで水素吸蔵反応しか考慮できていなかった解析モデルを放出反応についても対応できるように拡張した.反応速度を見積もるために必要な平衡圧,合金内水素濃度,温度の関係(PCT特性)についてもヒステリシスを考慮して,水素吸蔵・放出それぞれで式を決定した.本研究で提案したPCT特性を表す式と既往の式について充填層供給水素圧力が一定の場合と変化する場合についてそれぞれ実験と解析結果を比較したところ,供給圧力が一定の場合はPCTモデルの違いによる解析結果に差はみられなかったが,供給水素圧が変動する場合は,本研究で提案したモデル以外は正確な見積もりはできなかった.実際アクチュエータを動作させる場合,水素圧力は条件や経過時間とともに変化するため,動力源となる充填層内の温度応答や反応率予測の精度が向上できたといえる. また,実際に伝熱促進する場合,どの程度内部の有効熱伝導率を向上できれば良いのかという指針がこれまで示されていなかったので,解析モデルを利用して,所定の反応速度を得るために必要な有効熱伝導率を示すダイアグラムを作成した.このダイアグラムと既往の伝熱促進法の結果を組み合わせて,伝熱促進のための指針を示した. (2)については,昨年度の実験で3割程度の反応時間短縮が得られていたが,より高性能化を目指すため,熱伝導率が500W/mKと昨年度より2.5倍の熱伝導性を有するピッチ系炭素繊維を用いて検討した。この結果,反応時間は5-6割短縮できた.実験結果と解析結果を比較検討したところ,充填層と熱交換面壁面間の伝熱抵抗が増大したことがわかった.これはブラシ設置により壁面近傍の充填状態が変化したことによると考えられ,今後の課題となることが示唆された.
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