研究概要 |
本研究では,豊田中央研究所において作製された数種類の遺伝子組換え乳酸生産酵母(Saccharomyces serevisiae)の代謝フラックス解析を行った。具体的には,乳酸以外の発酵副生成物を低減し,乳酸収率を高めることを目的に作製されたPDC(ピルビン酸デカルボキシラーゼ)1/5遺伝子破壊株(Ishida, et. Al.,Biosci.Biotechnol.Biochem.,70,p1148-1153(2006)),LDH(ラクテートデヒドロゲナーゼ)多コピー発現株(Saitoh, et. Al.,Applied and Environmental Microbiology,71,2789-2792(2005).)などの解析をおこなった。これら解析の対象とした組換え酵母は,乳酸発酵が高収率になるにつれ顕著な生育阻害が観察されている。これらの株を好気条件および微好気条件で培養し代謝フラックス解析を実施した結果,増殖速度遅延は一部の代謝経路の滞りによる代謝中間体の供給不足や細胞内のレドックスバランスの不均衡によるものであることが示唆された。今後はこのフラックス解析の結果を裏付ける細胞の形質変化や遺伝子発現変化を定量的に示すことで,より詳細な生育遅延の原因究明とこれを改善した株の作製を進める。エタノールを生産せず増殖速度も低下しない酵母を作製できれば,産業利用に極めて有用なプラットフォームとなり得る。
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