研究概要 |
アナアオサはタイプ産地である目本を含む極東アジアが原産であると考えられている。一方,近年ヨーロッパやアメリカで新たにその分布が確認され,越境移入の可能性が示唆されているが,移入の起源や経路などは明らかではない。本研究では,自生地を含む世界各地のアナアオサ集団の遺伝的多様性の解析から,越境移入の起源と経路を議論することを目的として解析を行った。カナダやチリ,オセアニアで新たにアナアオサの分布を確認したほか,分子マーカー(葉緑体のatpHとatpIの介在領域)を用いた解析により,極東アジアに比べそれ以外の地域の遺伝的多様性が極端に低いことを確認した。この結果は,極東アジア以外の集団が人為的な移入に基づいていることを示していると考えられたが,日本以外の地域のサンプル数が不十分であることや複数の分子マーカーによる解析が必要であると考えられたことから,さらに継続して研究を行った。極東アジアと同レベルかそれ以上の数のサンプルを極東アジア以外の地域から入手したほか,新たに2つの分子マーカーを開発し解析を行なった。その結果,ミトコンドリアゲノムの解析では極東アジアで22ハプロタイプ,それ以外の地域で6ハプロタイプが見出された。マイクロサテライトマーカーについては,十分なサンプル数がある極東アジアとニュージーランドについて解析を行い,極東アジアで14遺伝子型,ニュージーランドで6遺伝子型が見出された。どちらのマーカーについても,極東アジア以外の地域では極東アジアに比べ遺伝的多様性がかなり低く,かつ極東アジアにも見られる特定の1タイプが9割近くを占めていた。 これらの結果は,極東アジア以外の地域の集団が遺伝的多様性の極めて少ない小さな母集団に由来することを示唆しており,極東アジア以外の集団が,極東アジアからの人為的な移入に基づいていることを示している。
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