研究概要 |
遺伝情報を保持するDNAは,外的および内的要因によって損傷を受けている。それに対して細胞は修復システムを持っている。しかしDNA複製中に生じた損傷に対して積極的に修復するシステムはない。複製型DNAポリメラーゼは損傷に遭遇すると複製を停止してしまう。そこで細胞はいくつかの方法で複製停止を回避する。その一つの方法が損傷乗り越えDNA合成(TLS)である。TLSでは損傷に特化された特殊なDNAポリメラーゼが一時的に働き複製の停止を回避する。その特殊なDNAポリメラーゼは,Polη,Polι,Polκ,REV1,Polζ(REV7-REV1複合体)などである。このなかで,REV1,REV3,REV7は多様な複合体を形成し,TLSにおける中心的なDNAポリメラーゼである。本研究では,X線結晶構造解析法によって,ヒトREV1,REV3,REV7が形成する超分子複合体の立体構造を世界に先駆けて決定し,REV1,REV3,REV7の複合体形成・DNA合成のメカニズムを解明することを目的としており,得られる結果はTLSシステム全体の解明に繋がると考えている。大腸菌による共発現系を用いてヒトREV7-REV3複合体を調製した。さらにREV7-REV3複合体の結晶化に成功し,筑波高エネルギー加速器研究機構放射光施設において1.90A分解能のX線回折強度データの収集に成功した。多波長異常分散法による構造解析にむけてセレノメチオニン置換体タンパク質の調製およびその結晶化に成功している。一方では,重原子同型置換法での解析も進めており,構造解析に有効な重原子誘導体の調製に成功している。現在,REV7-REV3複合体の構造解析を進めているところである。
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