研究概要 |
昨年度にドイツのゼンケンベルグ研究所を訪れ,1930〜1940年代に収集されたジャワ原人の遊離歯実物化石50点以上の観察を行った。そこで上位の地層由来とされる標本群に歯石らしき物質の沈着が多く見られることを確認したが,標本によっては博物館に収納される以前に歯石が剥がれ落ちてしまっているのではないかと疑われるものもあった。そこでこれらの化石の精密模型を検査し,表面に残る多孔性の風化像の分布を調べた。その結果,歯石が通常分布する歯頸部付近に帯状の未風化領域が認められる場合があり,これが歯石の存在を示すものと判断された。っまり風化が進行していた過程では歯石が存在し,出土前後に剥がれ落ちたと推測される。この手法で歯石の観察例数を増やした結果,歯石の頻度と歯サイズの縮小が関連しているという当初予測が裏付けられた。このような表面観察には,鉱物が染み込んで着色した実物化石よりも石膏模型の方が適している。 さらに今年度は予期せぬことに,現在人類進化学分野で大きな注目を集めている,ジャワ原人の矮小化した子孫と考えられるホモ・フローレシエンシス化石の観察機会を得ることができた。そこで化石の保管されているジャカルタへ赴き,歯と口腔衛生状態の観察を行った。身体サイズとともに歯サイズの著しい縮小化を示すこの新種の人類の歯列には,かなりの量の歯石の沈着が観察された。それとともにLB1号の上下顎歯列には,歯周病の痕跡も認められた。ホモ・フローレシエンシスにおける歯石の存在は,歯の縮小と食物が関連しているとの予測と整合するものであるが,LB1の劣悪な口腔衛生状態は食物以外の理由によると考えるべき証拠もあり,現在この可能性をさらに追求している
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