研究概要 |
ファージは,海洋,淡水,土壌等あらゆる環境に豊富に存在し,細菌間の遺伝子伝播のベクターとしての役割を担っている.自然環境中の細菌の90%以上は,通常の培養法では検出が困難であることから,外来遺伝子を獲得しても培養法では検出が困難である.本研究では,独自に開発した細胞内遺伝子増幅法を用いて,DNAそのものを標的として,ファージを介した遺伝子伝播を高精度に捉えることを試みた.その結果,以下の成果が得られた. 1)標準株を受容菌として,Pl,T4および環境分離ファージを介した遺伝子伝播の頻度を求めたところ,培養法に比べ1,000倍以上高い頻度で供与菌のもつ指標遺伝子のDNAが,ファージの宿主以外の細菌に移行することがわかった. 2)淡水試料中の細菌群集を受容菌として,ファージを介した指標遺伝子の伝播頻度を求めたところ,従来考えられている以上に高い頻度で,DNAが細菌に移行することがわかった. 3)rRNAを標的としたFISH法を用いて,指標遺伝子が移行した細菌種を検討したところ,淡水試料中のファージの宿主以外の細菌にもDNAが移行することを確認した. 4)移行した遺伝子の消長を検討したところ,受容菌の増殖にともなって,移行した遺伝子の大部分が保持されないことがわかった. 以上のように,DNAのレベルでは高頻度にかつ幅広い細菌に遺伝子が移行するものの,菌体内に保持される頻度は低いことがわかり,細菌の環境適応,多様性を考える上で重要な知見が得られた.
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