研究概要 |
放線菌Streptomyces albulusの二次代謝産物として生産されるε-Poly-L-1ysine(ε-PL)は,L-リジンがイソペプチド結合でっながった25〜35残基からなる直鎖状のアミノ酸ホモポリマーである。Ε-PLは,幅広い抗菌スペクトラムと高い安全性を併せ持ち,天然物系抗菌剤として実用化されている。Ε-PLの抗菌活性はL-リジンの鎖長に依存し,9mer以上で高い抗菌活性を示す。また,ε-PLにおけるL-リジンのイソペプチド結合は抗菌活性に極めて重要であり,それを構築するε-PLの生合成酵素においては,(1)L-リジンの「ε」と「α」位の認識機構,(2)構成アミノ酸の基質特異性,(3)ペプチド鎖長の決定機構,これら3点が特に興味深い。そこで,本研究では,ε-PLの生合成遺伝子の取得と機能解析を主目的とした。 平成18年度の研究成果より,遺伝子工学的手法では,ε-PLの生合成遺伝子の取得は困難であることが判明し,平成19年度からは研究計画を一部変更して,ε-PL生合成酵素(Pls)の精製(生化学的手法)を開始した。ε-PLの合成活性は本菌株の膜画分に認められたことから,この膜各分から各種クロマトグラフィーによる精製を種々検討した。Plsの精製には困難を極めたが,SDS-PAGE上で単一バンドとして精製することに成功し,in vitroの反応においてε-PLの生成を確認した。そこで,Plsの内部アミノ酸配列を決定し,その配列情報を基にS.albulusのゲノムDNAからε-PL生合成遺伝子(pls)を取得した。また,本遺伝子の破壊株はε-PLを生産しないことから,実際にε-PL生合成遺伝子であることが明らかになった。さらに,Plsは,新しいドメイン構造を有する新規NRPSであることを明らかにし,現在,その基礎的な触媒機能について解析している。
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