研究概要 |
非好塩性細菌である大腸菌は,エクトインやプロリンなどを例とする補償溶質の細胞内への取り込みにより高塩分環境への適応を可能とする。大腸菌は高塩環境下においてプロリンを補償溶質として利用できるが,炭素源・窒素源として代謝する事ができず,同時に,タンパク質合成への利用も阻害される。大腸菌のプロリンを用いた高塩環境適応にはプロリンデヒドロゲナーゼ(PutA)の発現量の低下により引き起こされるプロリン代謝能の低下が関係していると推測されている。本年度は,昨年度に作出したPutA高発現大腸菌BL21(DE3)-PutAを用いて高塩環境への適応性の変化を観察した。 BL21(DE3)-PutAの増殖はコントロール株である大腸菌K-12同様に,1M NaCl環境下において阻害されたが,プロリン添加により回復した。一方,IPTGを添加した場合はプロリンがあるにも関わらず低い増殖能を示した。BL21(DE3)-PutA細胞では,プロリンの積極的な取り込みが観察されだが,IPTG添加時には細胞内の遊離状態のプロリン量は著しく低下した。同様に,PutAの代謝物であり補償溶質の一種とされる細胞内グルタミン酸量も著しく低下した。グルタミン酸を補償溶質として添加した場合は,1M NaCl環境下での増殖は観察されなかった。BL21(DE3)-PutAは,IPTG添加時にPutAが高発現されPutAがプロリンを代謝,その結果プロリンを補償溶質として利用できなかったため,高塩環境に適応できなかったと考えられた。
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