研究概要 |
デンプン,セルロース等の酵素的加水分解反応は,従来それら多糖懸濁液中での反応の追跡が困難であったため,詳細な速度論的研究は行なわれてこなかった。これまでの研究において筆者らは,グルコアミラーゼによるトウモロコシ由来デンプン粒の加水分解反応およびセロビオヒドロラーゼによる微結晶セルロースの加水分解反応を,電気化学バイオセンサーを用いることにより追跡し,反応初速度の解析を行なった。その結果,加水分解反応速度は,i)酵素の基質表面への吸着,ii)酵素基質複合体の生成,iii)生成物の放出の三段階機構を仮定して導かれた速度式により説明できることが明らかとなった。今年度は,基質を6つの植物種(イネ,コムギ,トウモロコシ,キャッサバ,サツマイモ,ジャガイモ)由来のデンプン粒とした系について検討を行なった。グルコースオキシダーゼを固定化したセンサーを作製し,それにより各種デンプン粒懸濁液中のグルコース濃度に比例した電流値を連続的に測定した。デンプン粒懸濁液中にグルコアミラーゼを添加した後の電流上昇の傾きより,定常状態における加水分解反応速度が得られた。その反応速度は,粒径の小さい,すなわち比表面積の大きいデンプン粒を用いたときほど大きくなった。反応速度および酵素の基質表面への吸着量の解析から各種パラメータを決定した結果,酵素のデンプン表面への吸着しやすさはデンプンの種類による違いがほとんどみられないが,吸着した酵素の活性はデンプンの種類により異なることが示された。速度パラメータとデンプン結晶構造との比較等についても検討し,それらの研究結果を学術誌(Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry,71,946-950(2007))において発表した。
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