研究概要 |
アミロイド形成はタンパク質やペプチドの凝集による線維化,沈着現象であり,アルツハイマー病,クロイツフェルト・ヤコブ病,2型糖尿病などでみられる。そのためアミロイド形成とその阻害機構の解明は,それらの発症の遅延やリスク低減につながると期待される。昨年度,2型糖尿病と関連するIslet Amyloid Polypeptide(IAPP)の22番から27番からなるフラグメント(IAPP22-27)をアミロイド形成モデルペプチドとし,水晶発振子マイクロバランス法(quartz crystal microbalance;QCM)により,このペプチド同士,およびペプチドと植物ポリフェノールの一種である茶カテキン類との親和性について調べた。その結果,カテキンの中にはIAPPペプチド同士よりもペプチドに対する親和性が高いものが存在することを明らかにし,阻害剤となりうることが示唆された。 今年度,IAPPペプチドフラグメントのアミロイド線維形成に伴う濁度変化を観測し,この線維形成機構が,核形成段階である一段階目と線維成長段階である二段階目からなる自己触媒反応であることを明らかにした。そしてQCM測定によりペプチドへの親和性が高いことが示されたcis型カテキンは,IAPPペプチドのアミロイド線維形成における核形成段階を数百倍遅くすることがわかった。カテキン分子がIAPPペプチドのどの部位に作用するのか調べるため,NMR測定を行った。化学シフト値変化とNOEの観測から,カテキンのC環とペプチド側鎖の接近が示唆された。今回の結果は,茶カテキンがアミロイドペプチドに特異的に結合し,ペプチドの会合から核形成に至る段階を阻害することを明らかにしたもので,今後植物ポリフェノールやその誘導体がこれらの病気の発症のリスク低減に利用されることにっながると期待される。
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