研究概要 |
天然のセルロースIからIII(I)への変態機構の解明を目指し、昨年度は、その中間構造であるアンモニアセルロースの結晶構造を解析した。本年度は、セルロースIからIII(I)への別の中間構造であるエチレンジアミンセルロース(セルロースI-エチレンジアミン複合体)の構造を繊維X線回折法によって解析した。 シンクロトロン放射光を用いて測定した繊維図から解析したエチレンジアミンセルロースの単位格子は、一本鎖の単斜晶、a=0.455nm,b=1.133nm,c=1.037nm,γ=94.02°、空間群はP2_1であった。すなわち、セルロースIII(I)やアンモニアセルロースと同様セルロース分子鎖にstaggerの存在しない構造であった。単位格子の体積、密度、熱分析の結果から、非対称単位にはグルコース残基1個とエチレンジアミン分子が1個含まれていることが分かった。また、エチレンジアミンセルロースの化学的安定性、熱的安定性についてもX線回折法によって検討した。エチレンジアミンセルロースは、水やメタノールで洗浄すると、エチレンジアミン分子が除放してそれぞれセルロースI_β、III(I)へ変態するが、トルエンなどの非極性溶媒で洗浄しても複合体の構造は保持されたままであった。また、エチレンジアミンの沸点(117℃)より高い130℃まで複合体の構造は安定であったが、150℃以上の温度ではセルロースI_βへ変態した。
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