研究概要 |
リグニン分解性担子菌Ceriporiopsis subvermisporaは木材細胞壁多糖であるセルロースを極力壊さずにリグニンを高選択的に分解するというユニークな特徴を有する.この選択的リグニン分解機構においては脂質過酸化の基質となるリノール酸のような長鎖不飽和脂肪酸やセルロースの破壊を間接的に抑制する新規代謝物ceriporic acidなどの様々な脂質関連代謝物が重要な役割を果たしていると考えられている.従って,これら脂質関連代謝物の生合成経路を分子レベルで解明することはC.subvermisporaの選択的リグニン分解機構の解明の一助となる.今年度は,これら脂質関連代謝物において重要な前駆物質となるacyl-CoAに注目し,その生合成酵素であり,脂質代謝の初発酵素でもあるacyl-CoA synthetase(ACS)遺伝子の単離と解析を行った.その結果,2種類の長鎖の脂肪酸を基質とするACS遺伝子のcDNAの取得に成功した.これら遺伝子がコードするアミノ酸配列にはACSに特徴的なAMP-binding domainやACS signature motifが存在した.一方,これら2種類のACS遺伝子の他にもC.subvermisporaのゲノム上にはACS遺伝子が多数存在すると示唆される結果も得られた.これは,C.subvermisporaにおいて見られる木材腐朽初期に大量の長鎖不飽和脂肪酸を蓄積する現象や種々の脂質関連代謝物を産生する特徴を支持する興味深い結果かもしれない.
|