研究概要 |
1.昨年度に引き続き,琵琶湖から採集したタイワンシジミ種群およびセタシジミの分子遺伝学的解析を行った。ミトコンドリアCOI遺伝子の部分領域に基づく解析の結果,琵琶湖のタイワンシジミ種群のミトコンドリアDNAには2つのハプログループが存在することが明らかとなった。また,2つのハプログループは混在して分布していたことから,異なる移入源をもつ複数の個体群の交雑が進んでいることが予想される。タイワンシジミ種群が雄性生殖することを考慮すると,ミトコンドリアDNAを琵琶湖のタイワンシジミ種群のタイピングに用いることは困難であると考えられた。 2.さらに,固有種であるセタシジミについても同遺伝子領域の解析をすすめた。その結果,これまで報告された2つのハプロタイプとは異なる配列を持つセタシジミ個体群の存在を確認した。さらに,その個体群のミトコンドリアCOI遺伝子は,タイワンシジミ種群がもつハプロタイプの一つとほとんど同じ配列をもち,タイワンシジミ種群のハプログループに属することが明らかとなった。また,この個体群の雌雄性および精子鞭毛数を観察した結果,既知のセタシジミと同様に雌雄異体であり,2本の鞭毛を持つ精子を有していたことから,本個体群はセタシジミであることが支持された。以上の結果は,雄性生殖を行うタイワンシジミ種群から両性生殖を行うセタシジミに,生殖様式の違いを超えて,タイワンシジミ種群のミトコンドリアDNAが水平的に移動したことを示唆している。
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