研究概要 |
食に対する消費者要求の高度化により,青果物の流通販売の現場においてもこれまで以上に鮮度を意識した取扱いが求められている。従来,現場における青果物の鮮度評価は,外観等の主観的判断に委ねられていたが,これを定量的に表現しうる技術を開発した上で鮮度検査を実施し,科学的根拠に基づく評価を与えることは,青果物流通・小売業における鮮度管理のレベルアップに寄与するものと考える。青果物保蔵の研究分野においては,時間経過や温度に対応して含量が変化するビタミンCや糖などの内容成分の消長を把握することによって鮮度評価を実施してきた。しかしながら,青果物の品種や作型等によりこれらの初発含量は大きく異なることから,初発値と鮮度検査を実施する時点の2点での含量測定を行い,初発値に対する比率として評価する必要があり,流通・小売の現場における抜き取り検査には適用できないという重大な欠点を有している。本研究は,この欠点を克服した単回測定により鮮度評価を可能とする指標の開発を目的としたものである。生物体の老化現象は,細胞膜脂質が過酸化・分解して細胞機能を喪失することに起因するといわれていることから,本研究では脂質代謝関連物質の消長に着目して青果物鮮度との関連性を検討した。実験では10月および1月に収穫されたホウレンソウを種々の温度環境に貯蔵し,リン脂質,糖脂質,過酸化脂質含量を経時的に測定した。その結果,(過酸化脂質含量)/{(リン脂質含量)+(糖脂質含量)+(過酸化脂質含量)}×100で与えられる数値を,遭遇した積算温度(温度×時間)に対してプロットしたところ,収穫時期に依らず,はじめ0であったものが,積算温度の増加(鮮度劣化)に伴い直線的に増加した。このことは,式中の脂質関連物質含量を定量し,上式によって与えられる数値を得ることで,青果物の定量的な鮮度評価が可能となることを示している。
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