研究概要 |
本研究では,バベシア原虫へ効率良く外来遺伝子を導入する系を確立し,これを用いた発現クローニング法によって,バベシア原虫の宿主域決定に関わる因子を同定することを目的としている。平成19年度は,Babesia boysのrap-1遺伝子上流ならびに下流領域とレポーター遺伝子を組み合わせてB.bovis用発現ベクターを構築した。最近報告された改良型電気穿孔法を用いて,この発現ベクターによるB.bovisへの外来遺伝子導入の有効性を確認した。続いてウマを宿主とするB.caballiから抽出したmRNAからcDNAライブラリーを作製し,前述の発現ベクターに組み込むことでB.caballcDNA発現ライブラリーを作製した。この発現ライブラリーをB.bovisに導入し、B.cabal1由来蛋白質の発現をB.caballi感染ウマ血清を用いた酵素抗体法により確認した。このB.caballi由来cDNAライブラリーが導入されたB.bovisをウマの赤血球で培養維持することで,ウマへの宿主域を獲得し,ウマの赤血球内で生残可能となった虫体の選別を試みたが,すべての虫体が死滅し,生残した虫体は確認できなかった。導入されたcDNAの偏りや発現の強弱についての検討や,より多量の検体を用いた遺伝子導入法の検討が必要であると考えられた。宿主域決定因子の同定に向けて,今後の課題も多く残すが,一連の実験により、バベシア原虫の宿主域決定機構の解明に向けた具体的な研究戦略を示した。 一方で,Cyclin依存性kinaseがB.bovisの生活環成立には必須である可能性を証明した(Nakamura et al.,2007)。また,ヘパラン硫酸に代表される硫酸化複合糖質がバベシアによる赤血球侵入を拮抗阻害する現象も明らかにし(Bork et al.,2007),バベシア原虫の複雑な自己複製機構を解明する一助とした。
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