研究概要 |
ニューロンは、標的となる神経細胞へ軸索を伸長・分岐させた後、その標的細胞と正確な細胞間接着を行うことで、記憶や学習に必要なシナプス形成とその維持を可能にする。中枢神経特異的に発現する接着分子L1は神経突起や軸索分岐形成に関与することが報告されているが、L1依存的な軸索分岐形成の分子メカニズムについては明らかにされていない。 申請者は、細胞内膜輸送や細胞骨格系の制御に関与する低分子量Gタンパク質のARF6が与えるL1依存的な軸索分岐形成への影響について検討した。ARF6のドミナントネガティブ型ARF6^<T27N>"を海馬ニューロンに過剰発現させ、L1の細胞外ドメイン領域のタンパク質をコートした培養皿で培養したところ、L1依存的な軸索分岐形成を有意に促進した。また、ARF6のエフェクター分子であるtype I PI(4)P5-kinaseをARF6のドミナントネガティブ型と共発現させた結果、その軸索分岐形成促進効果は抑制された。これらの結果から、神経軸索突起分岐形成にはtype I PIPkinaseの産物であるホスファチジルイノシトール(4,5)-2リン酸の細胞膜での量の調節が重要な役割を果たしているのではないかと考えられた。L1の細胞内ドメインには塩基性アミノ酸に富んだ領域が存在し、アクチン骨格系との連結に重要なEZRIN分子との相互作用が行われている。興味深いことに、L1同士の分子間相互作用の際にEZRINとの分子間相互作用が増強され、さらにtype I PIPkinaseとの分子間相互作用が確認された。またL1の細胞内ドメイン領域を組み込んだGST融合タンパク質は、ホスファチジルイノシトール(4,5)-2リン酸に対して結合活性を示した。すなわちこれらの結果から、L1依存的なホモフィリックな相互作用後に、低分子量Gタンパク質であるARF6がtype I PIPkinaseをリクルートし、EZRINとの分子間相互作用に必要なホスファチジルイノシトール(4,5)-2リン酸の合成を制御し、軸索分岐形成に影響を与えていることが考えられた。
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