研究概要 |
α-キラルカルボン酸誘導体(1)の光学活性体はしばしば生体内で光学異性化を起こす.そのため,それらの厳密な薬理活性は不明である.今回,異性化を起こさず,かつ1の生物学的等価体となりうる分子として,異性化に関与する水素をフッ素で置換した等価体の設計,合成,薬理活性等の調査を目的として以下の検討を行った. 1.サリドマイドのグルタルイミド部5位にヒドロキシル基を持つ代謝物の含フッ素等価体は,グリシンから15工程を経ることで合成に成功した.また,ピログルタミン酸から7工程で得られるδ-フルオロラクトンを中間体としたルートにより,サリドマイド加水分解代謝物の含フッ素等価体を合成した.それぞれの光学活性体はキラルカラムを用いて分離した.幾つかの等価体の両光学異性体について,HL-60細胞に対する増殖抑制活性を調べた結果,フッ素が直結した不斉炭素の絶対配置がS配置の異性体が,R配置の異性体に比べて高い活性を示すことが分かった. 2.チアゾリジンジオン類の含フッ素等価体の合成を目的として,ロシグリタゾンのイミド窒素保護体をフッ素化した後,脱保護を行うことにより目的物を得るルートを検討した.その結果,t-ブトキシメチル基を保護基とすることにより,目的の含フッ素等価体の合成に成功した.また,ピオグリタゾンのフルオロカルボン酸類縁体の合成を目的として,p-ヒドロキシベンズアルデヒドから容易に得られる2-フェニルチオプロピオン酸エステルをフッ素化することにより,対応するフルオロエステルを得た.現在,カルボン酸への変換を検討している. 3.幾つかのα-アリール-α-フルオロプロピオン酸についてヒスタミン遊離抑制活性を調べたところ,S体がR体に比べて高い活性を示すことが分かった.一方,これらのフルオロプロピオン酸は殆どアミロイドβ42産生抑制作用を持たないことが分かった.
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