研究概要 |
我々は、ヒト固形癌細胞株を用いた網羅的解析からp53変異がんの多くで、アポトソーム系(Apaf-1/カスパーゼ9依存性細胞死誘導経路)が、正常細胞と比べ顕著な亢進を示すことを見出してきた。このことは、p53変異がんにおいて、アポトソームを直接に活性化する薬剤が選択的細胞死誘導のためのストラテジーとなりうることを示唆する。また最近、さらに、癌におけるアポトソーム亢進が治療標的となりうる、とする我々の報告(Mashima, JNCI2005)を支持する報告が他のグループより出されている(Schafer, Cancer Res 2006, Johnson CE, PNAS2007)。我々は、in silico解析により、アポトソーム経路を直接的に活性化する候補化合物群を抽出した。その結果、アポトソーム活性化化合物としてAcyl-CoAsynthetase(ACS)阻害剤が得られた。ACS阻害剤は、ミトコンドリアからのチトクロムc放出を促進するが、他方、チトクロムc放出からアポトソーム活性化の過程への作用も示唆された。そこでそのメカニズムをより詳細に明らかにするため、アポトソーム制御因子の発現変化を検討した。その結果、アポトソーム系に対し抑制効果をもつヒートショック蛋白質の発現がACS阻害剤処理により低下し、逆に、ACS阻害剤の作用をキャンセルするACS5過剰発現はこれを亢進することがわかった。実際、このヒートショック蛋白質の強制発現は、ACS阻害剤による細胞死を抑制することから、その機能的関与が示された。ACS阻害剤による抗腫瘍作用を調べるため、さらにp53変異がんおよびp53正常がんをヌードマウスに移植し、ACS阻害剤による腫瘍退縮やその選択性を検討した。その結果、ACS阻害剤による腫瘍退縮がp53変異がん選択的であることを見出した。
|