研究概要 |
長鎖脂肪酸のエタノールアミド(N-アシルエタノールアミン,NAE)は,虚血脳や心筋梗塞などの病変部位で著しく増加し,抗炎症作用を発揮する脂質メディエーターである。NAEのひとつであるアナンダミドは,カンナビノイド受容体の内因性リガンドであることも知られている。NAEの生体内レベルの調節に関与するNAE分解酵素としては,中性からアルカリ性で働く脂肪酸アミド加水分解酵素がよく知られているが,我々は最近,同じ反応をもっぱら酸性条件で触媒するアイソザイム(N-アシルエタノールアミン水解酸性アミダーゼ,NAAA)の遺伝子クローニングに成功した。本研究課題において平成18年度は,当該酵素の特異抗体を初めて作製し,免疫化学的解析を行い以下の成果を得た。 作製した抗体の特異性を,組換えNAAA発現細胞を用いてWestern blottingにより確認した。ラット肺胞マクロファージや肺から単離したNAAAを同法で解析したところ,本酵素は糖蛋白であり,ペプチド鎖の限定分解を受けることが判明した。次に肺胞マクロファージを用いて免疫染色を行い,蛍光顕微鏡で観察したところ,本酵素はリソソームに局在していた。さらに,ラット肺の組織切片の免疫染色を行った結果,NAAA陽性細胞は主としてマクロファージであった。この結果に一致して,肺から単離した肺胞マクロファージは肺組織全体と比べて,はるかに高いNAAAの比活性と蛋白およびmRNAの発現レベルを示した。また,腹腔マクロファージにも強い発現が認められた。次に,ラット脳の免疫組織染色の結果,NAAA陽性細胞は,主として脳室内のマクロファージであった。一方,ミクログリアは陰性であった。以上の結果から,NAAAはラット組織中の種々のタイプのマクロファージで強く発現していることが明らかとなり,炎症や組織変性の場で蓄積するNAEの分解に貢献することが考えられた。
|