研究概要 |
本研究では小児の腎腫瘍であるウイルムス腫瘍(腎芽腫)の発生機序解明を目的とし,本腫瘍の原因遺伝子の候補とされているWT1遺伝子並びにその他の領域の異常を解析した。病理組織学的にウイルムス腫瘍と診断された腫瘍24例についてWT1遺伝子ゲノムのシークエンス解析を行った。その結果,7例でWT1遺伝子に塩基配列レベルの変異を同定した。また,第11染色体短腕のLOH解析を行った結果,11p13-11p15領域のLOHを示す症例が約40%存在し,WT1遺伝子異常と共存する腫瘍としない腫瘍が存在することが明らかとなった。WT1遺伝子異常のない腫瘍においても,全体の20%で第11染色体短腕にLOHを認めた。合計すると全体の約半数で,何らかの第11染色短腕の異常が存在することが明らかとなった。また,第1染色体短腕では30例中3例で,第16染色体長腕では30例中2例でLOHを示す領域が存在することが明らかとなった。第1染色体短腕,第16染色体長腕の異常は,共存することがなく,また,WT1変異との共存も認められなかった。両染色体内にはWT1非変異例におけるウイルムス腫瘍の原因遺伝子の候補が含まれていると考えられた。また,第1染色体短腕のLOHを有する腫瘍では組織学的に浸潤が強い傾向がうかがわれたが,解析数を増やす必要があると考えられた。一方,第1,第16染色体異常と腫瘍内の構成成分(上皮,間葉,後腎芽組織)の間には明らかな相関は認めなかった。
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