研究概要 |
筆者らはdifferential display法により前立腺癌ならびにその前癌病変であるprostatic intraepithelial neoplasiaに特異性高く発現する新規遺伝子,prostate cancer antigen (PCA)-1を同定した(Konishi N, Shimada K.,Clin. Cancer Res, 2005)。 本研究では,PCA-1の前立腺癌細胞における生物学的な機能を解析した。ヒト前立腺癌細胞株であるPC3を用いて,PCA-1遺伝子をノックダウンすると,siRNA導入から72時間後にアポトーシスが誘導され,Bcl-2 fami ly memberであるBcl-xL発現の低下と細胞質内におけるcytochromeC濃度の上昇を認めた。さらに,matrigelや胎生11日目のchorioalantoic membraneを用いたin vitro, in vivo浸潤アッセイの結果,PCA-1のノックダウンはdiscoidin receptor (DDR)1遺伝子の発現抑制を介して,癌細胞め浸潤能を有意に抑制させることが判明した。反対に,PCA-1遺伝子をヒト前立腺癌細胞株DU145に強発現させると,Bcl-xLやDDR-1だけでなく,matrix metalloproteinase 9の発現が増加し,癌細胞の浸潤能を強く促進させることを見出した。 興味深いことに,アンドロゲンに感受性のあるヒト前立腺癌細胞株,LNCaPを長期間に渡ってアンドロゲン枯渇培地で培養すると,PCA-1やその下流分子であるBcl-xL, DDR-1の発現が有意に上昇してホルモン抵抗性を獲得するとともに浸潤能などの悪性度が増加すること,そして,これらの現象がPCA-1遺伝子のノックダウンにより有意に抑制されることが分かった。さらに,全169症例の前立腺癌組織標本を用いた免疫組織化学的研究により,ホルモン抵抗性癌細胞では,ホルモンnaiveな癌細胞に比較して,PCA-1/Bc1-XL/DDR1の発現が有意に上昇することも判明した。 以上の結果から,PCA-1遺伝子は前立腺癌細胞における細胞生存シグナルや浸潤メカニズムに重要な役割を担うだけでなく,ホルモン抵抗性の獲得やこれに伴う癌悪性度の上昇にも深く関与し,前立腺癌治療の有用なターゲットとなること,PCA-1/Bcl-xl/DDR1発現がホルモン抵抗性獲得を予測する上で有用な病理組織学的マーカーになると考えられた(Shimada K., Cancer Sci, 2008)。
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