研究概要 |
今年度の目標は平成18年度の課題が残る場合はそれを継続し、終了次第VSV DNAのウイルス学的病理学的意義の解明に取り組む予定であった。今年度はこれまでの実験結果の検証をし、逆転写酵素阻害剤の効果について検討した。内容は以下の通りである。 ヒトレトロトランスポゾンであるLINE-1をVSV DNAが検出されない細胞(ヒトグリオーマ由来NP-2細胞)に導入したNP-2/LINE-1細胞、マウスレトロウイルスを導入したNP-2/MuLV細胞、VSV DNAが検出されるヒト細胞株293T細胞、同じくVSV DNAが293T細胞の約100倍多く検出さるネコ腎線維芽細胞由来8C細胞を用いて検討した。これらの細胞に種々の逆転写酵素阻害剤(AZT,3TC,ddT,ddI)をそれぞれ0.1μg/mlから10μg/mlまで処理し、VSVを感染させVSV DNAの合成量を比較検討した。なお逆転写酵素阻害剤の効果はMuLV,HIVに処理し予め確認してある。 NP-2/LINE-1細胞では(ddI>3TC>ddT>AZT),NP-2/MuLV細胞では(AZT>ddI>ddT>3TC)、293T細胞では(ddI>3TC=ddT=AZT)、8C細胞では(ddI>3TC>ddT=AZT)であった。LINE-1を導入した細胞とマウスレトロウイルスを導入した細胞では逆転写酵素阻害剤に対する効果のパターンが異なっていた。293T細胞、8C細胞の逆転写酵素阻害剤の感受性パターンはLINE-1を導入した細胞に類似していた。これらはVSV DNA合成には主にLINE-1が関与するという本研究の結果を支持するものであった。興味深いことにVSV DNA合成にはddIが効果的であることが分かった。VSV DNA合成に病原性(自己免疫疾患など)があるならば、治療薬の候補となるであろう。 本年は最終年度であり第11回日本神経ウイルス研究会(草津)と第55回日本ウイルス学会学術集会(札幌)で発表し、多くの有益な意見を得た。また、英国ユニバーシティカレッジロンドンのレトロウイルス研究者と今後の課題、発展性についての打ち合わせも行い貴重なアドバイスを得た。現在は論文投稿準備中である。VSV DNAのウイルス学的、病理学的意義については依然未解明であるが、本研究ではVSV DNAの構造の解析までとし、意義については次回の課題としたい。
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