研究概要 |
本研究は,頭頸部がんの発症に関わる生活習慣,遺伝的背景を明らかにすることを目的としている。本年度は葉酸代謝酵素とアルコール代謝酵素の遺伝子多型と頭頸部がんのリスクについて症例対照研究で検討した。症例は組織学的に頭頸部扁平上皮癌と診断された237例(口腔がん119例,咽頭がん86例,喉頭がん32例),対照は当センターを受診した非がん患者で,症例に対して年齢,性を1:5でマッチさせた711例とした。葉酸代謝酵素のMethylenetetrahydrofolate reductase(MTHFR),methionine synthase(MTR),methionine synthase reductase(MTRR),thymidylate synthetase(TS)とアルコール代謝酵素のalcohol dehydrogenase 2(ADH2),aldehyde dehydrogense 2(ALDH2)の遺伝子多型をPCR法にて測定した。関連の指標としてロジステック回帰分析によるオッズ比(OR)と95%信頼区間(95%CI)を用いた。また,飲酒,喫煙,葉酸摂取などの生活習慣とこれらの遺伝子多型を組み合わせて解析し,遺伝子環境交互作用を検討した。結果は,葉酸代謝酵素の遺伝子多型単独での解析では,どの遺伝子多型においても頭頸部がんのリスクとの間に関連は認められなかった。飲酒習慣との組み合わせ解析による検討で,MTHFR C677T遺伝子多型と飲酒習慣が頭頸部がんのリスクに交互作用を示した。大量飲酒者においてMTHFR C677TのCアレルは頭頸部がんのリスクであったが,Tアレルでは関連を認めなかった。アルコール代謝酵素の遺伝子多型に関する検討では,ADH2 Arg/Arg(OR=2.67;95%CI,1.51-4.57),ALDH2 Glu/Lys(0R=1.66;95%C1,1.20-2.31)は頭頸部がんのリスクであった。さらにそれらの遺伝子多型の組み合わせ解析による検討では,ADH2 Arg/ArgかつALDH2Glu/Lysである大量飲酒者は,リスクが増大することを認めた(OR=11.3;95%CI,2.97-43.3)。以上のことから,上記の遺伝子多型と飲酒習慣を組み合わせて検討することにより,頭頸部がんの高リスク集団を特定できることがわかり,そのことは予防対策に意義高いものであると考えた。
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