研究概要 |
Wntシグナルは種々の癌,とりわけ大腸癌で高頻度に異常を認めるが,その最下流に位置するTCF/β-catenin転写複合体をプロテオミクスの手法を用いて解析し,その複合体に含まれる蛋白質の同定を試みた。その結果,新規の結合タンパク質としてKu70を同定した。 そこで,Ku70がTCF/β-cateninの転写活性に影響を与えるかについてレポーターを用いて解析した。RNAiを用いてKu70の発現を抑制したところTCF/β-cateninの転写活性は増強し,逆にKu70を過剰発現させると転写活性は抑制された。また,Ku70の発現を抑制した際のTCF/β-cateninの標的遺伝子の発現を調べたところ,c-mycやcyclinD1などの標的遺伝子の発現増加を認めた。 我々はこれまで,PARP-1がTCF/β-cateninの転写活性を増強することを報告している。そこで,PARP-1とKu70のTCF/β-catenin複合体への結合状況を免疫沈降により調べた結果,PARP-1の存在下ではKu70の結合が減少し,逆にPARP-1が存在しない場合にはKu70の結合が増加することが判明した。 DNA障害が起こるとPARP-1は活性化され自己polyADPリボシル化される。そこで大腸癌細胞に対しアルキル化剤でDNA障害を与えたところ,TCF/β-catenin複合体に対するPARP-1の結合量は減少し,逆にKu70は増加していた。その際にTCF/β-cateninの転写活性の減少が認められた。 以上から,DNA障害の際にTCF/β-catenin複合体に対するKu70とPARP-1の結合が拮抗的に変化することで,その転写活性が制御されると考えられた。
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