研究概要 |
炎症性腸疾患(IBD)患者の末梢血単核球(PBMC)を分離し,異なるToll-like rcceptor (TLR)リガンドに対する反応性の差異を検討した。また,潰瘍性大腸炎(UC)患者およびクローン病(CD)患者のTLR9の遺伝子配列を解読し,健常人のTLR9遺伝子の変異、多型(SNPs)と比較し,IBDの臨床的特徴との関連について検討した。対象はUC50人,CD9人,健常人50人であった。 (1)血清中のTNF-αの濃度は,UC患者およびCD患者において高値であったが,IFN-αの濃度は健常人と比較し有意差を認めなかった。(2)検討した全てのTLR(2,3,4,7,9)について,IBD群と健常人群を比較したが,mRNA発現に差異を認めなかった。(3)TLR9のリガンドであるCpG DNAの刺激により,UC群のPBMCによるIFN-α産生が,他の群と比較して有意に低値であった。一方,TNF-α産生に関しては有意差を認めなかった。(4)遺伝子のTLR9領域において,-1486TC,1174AG,2848GAの3個のSNPsが検出された。(5)これらのSNPsとIBDの発症リスクを検討したところ,UCの発症リスクとの間に関連が認められた。(6)遺伝子型の相違によるUCの臨床的特徴(性別,発症年齢,腸炎の部位,腸炎の重症度)について検討したが,明らかな関連は認められなかった。尚,TLR9を介したIFN-α産生経路と上記3個のSNPsとの関係については検討していない。 以上をまとめると,UCにおいてTLR9を介するIFN-α産生経路の機能異常が認められ,TLR9のSNPsがUCの発症リスクに関与していたことから,TLR9を介した自然免疫系の異常がUCの発症につながることが明らかとなった。これまでの報告ではNOD2の遺伝子変異が欧米のCD患者でな発見されていたが,日本人のCD患者では認められていなかった。今回の検討で,日本人の炎症性腸疾患に関して,NOD familyと同様に病原体の構成成分の認識に関わるTLR,特にTLR9がUCの発症に深く関わってくることが初めて明らかとなり,IBDの病態解明の一助になることが考えられ,またUCの発症に関しての予測や,発症予防の開発につながっていくことが期待される。
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