研究概要 |
大腸癌症例において数種のmiRNAの発現の増加もしくは低下がmicroRNAarray解析によって認められた。miR-143の発現は大腸癌45/62例(72.6%)、大腸腺腫10/15例(66.7%)で低下していた。miR-145の発現は大腸癌49/62例(79.0%),大腸腺腫11/15例(73.3%)で低下していた。miR-34aの発現は大腸癌41/62例(66.1%),大腸腺腫7/15例(46.7%)で低下していた。miR-7の発現は大腸癌43/62例(69。4%),大腸腺腫4/15例(26.7%)で増加していた。すべての大腸癌培養細胞株でmiR-143,-145は低発現で,miR-7は高発現であった。DLD-1細胞に成熟型miR-143,-145,-34aやmiR-7のantisenceRNAを単独で導入すると細胞増殖が抑制され,miR-143,-145,-34aの低発現やmiR-7の高発現が発癌に関与している可能性が示唆された。またmiR-143とmiR-34aやmiR-143とmiR-145の成熟型miRNAを併用投与すると相加もしくは相乗的な細胞増殖抑制がみられた。さらにmiR-143の標的遺伝子として我々はこれまでに増殖に関わるMAP kinaseであるERK5を指摘してきたが,ルシフェラーゼ法を用いてmiR-143のERK 5mRNAにおける結合部位を決定した。さらにDLD-1細胞にαマンゴスチン等,いくつかのアポトーシス導入試薬の投与によりアポトーシスを誘導すると,miR-143およびmiR-145の発現は時間依存的に増加した。その際にもERK5の発現を翻訳レベルで抑制していることが判明した。このことはmiR-143およびmiR-145が細胞死に関わっていることを強く示唆している。またDLD-1細胞が増殖する際に培養液中のmiR-7が認められ,時間を追って増加することが観察された。このことはmiR-7が細胞外での機能を有することを疑うものである。以上の結果より,miRNAが新しい腫瘍マーカー及びRNA医薬への可能性を示唆している。
|