研究概要 |
体内時計は,糖・脂質代謝など様々な生体機能の恒常性維持に重要な役割を果たしている。体内時計を構成する時計遺伝子には脂肪細胞分化や脂肪合成を直接制御する作用も備わっていること,時計遺伝子機能を遺伝的に欠損したマウスは肥満,メタボリックシンドロームを発症すること,遺伝的に肥満,2型糖尿病を発症するマウスの肝や脂肪組織では時計遺伝子機能が減弱していることから,少なくともマウスでは,2型糖尿病,メタボリックシンドロームの病態と時計遺伝子機能との間に密接な関連があると考えられる。 そこで本研究では,ヒトにおける2型糖尿病と時計遺伝子機能の関連を,末梢血中白血球を用い解析した。平成18年度の研究では,健常人,2型糖尿病患者ともに末梢血中白血球の時計遺伝子発現に24時間のリズム性があることを確認し,少なくとも一部の時計遺伝子(Per1,Per3,Bmal1)のmRNA発現リズムは健常人に比べ2型糖尿病患者で減弱しており,その発現量も有意に低いことを明らかにした。しかしながら,両群間の年齢には有意差があり,時計遺伝子発現リズムの減弱が年齢を介したものである可能性を否定できなかった。 そのため,本年度は被験者を50歳以上に限定して,健常者50名,2型糖尿病患者30名より午前9時に空腹時採血を行い,時計遺伝子mRNA発現量を測定した。その結果,50歳以上70歳未満の男性(健常者15名,2型糖尿病患者13名;平均年齢はそれぞれ59.3歳,58.8歳)では,Bmal1,Per1,Per3遺伝子のmRNA発現量が2型糖尿病患者で有意に低下していた(それぞれ,平均値で健常人の0.87倍,0.80倍,0.71倍)。 これらの結果より,2型糖尿病と時計遺伝子の間にはヒトにおいても何らかの関連があることが強く示唆された。今後は,両者の関連をもたらす機序について解明するための研究を実施予定である。
|