研究概要 |
肥満とそれに伴う疾患の対策は医療福祉・経済の両面において喫緊の課題である。AMPKおよび関連キナーゼ群はエネルギーバランスの恒常性保持に関与することから肥満、糖尿病との関連が注目されてきたが,新規AMPK関連キナーゼSNARKの生理機能には未知な点が多かった。本研究では遺伝子欠失マウスを用いSNARKの高次機能を明らかとし,疾患モデルとしての可能性を探索した。Snarkヘテロ接合体変異マウスでは加齢もしくは高脂肪食投与によって顕著となる肥満を示した。肥満に伴ってこれらのマウスでは高脂血症,脂肪肝,耐糖能異常など,ヒトのメタボリックシンドロームに類似した症状が観察された。変異マウスの摂餌量は野生型と変わらず,一方で酸素消費量の減少,基礎体温の低下があったことから,肥満の原因は過食ではなく,エネルギー消費の減少にあると推測された。また体温の低下は明らかな肥満を示す月齢以前より認められ,若年時からのエネルギー消費の減少が成熟後の肥満の発症母地になると考えられた。さらに,運動などエネルギー消費を亢進させることにより変異型に見られる肥満は予防できることも明らかとなった。変異マウスに認められる表現形は加齢,過食等の生活習慣により引き起こされるヒトのメタボリックシンドロームに極めて類似しており,Snarkヘテロ接合体変異マウスがヒトの生活習慣病の病態研究,治療開発のための優れた動物モデルになることが期待された。加えて,肥満を呈する変異マウスでは化学発がん剤による大腸腫瘍の発症リスクが増加していることも示され,代謝異常と発がんの分子機構を解明するためにも有用であると考えられた。
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