研究概要 |
ウェルナー症候群は、常染色体劣性の遺伝子疾患であり、日本人では10〜20万人に1人の割合で起こる早老症の1つである。ウェルナー患者では、甲状腺癌や悪性黒色腫が比較的多いこと、また、尿中ヒアルロン酸濃度が高いことなどが知られている。ヒアルロン酸は、古くから加齢マーカーとして知られ、コラーゲンとともに皮膚構造の維持に重要な役割を果たしている。本研究では、甲状腺癌の既往歴を持つウェルナー症候群患者由来の細胞株を用い、CD44の発現解析を中心に、ヒアルロン酸合成酵素、ヒアルロン酸分解酵素の発現解析を行った。 1.ウェルナー症候群患者のリンパ球由来細胞株樹立 申請者が所属する研究室では、約30年間にわたって収集したウェルナー患者の詳細な臨床データを保管している。平成19年度(2007年4月から2008年3月まで)においては、ウェルナー症候群の症状を呈する患者とその家族(計4人)から血液を採取後、リンパ球を分離し、EBウイルスを感染させ、リンパ球由来細胞株を樹立した。 2.RT-PCR法を用いたHASファミリーとヒアルロン酸分解酵素の発現解析 ヒアルロン酸合成酵素(Hyaluronan Synthetase)には、HAS1、 HAS2、 HAS3の3種類が存在する。本研究では、健常人リンパ球由来の培養細胞株とウェルナー患者リンパ球由来の培養細胞株を用い、HAS1, HAS2, HAS3遺伝子の発現について比較・検討を行った。ウェルナー患者由来の細胞株と健常人由来の細胞株では、HAS1、 HAS2、 HAS3遺伝子の発現に特に差は見られなかった。また、ヒアルロン酸分解酵素(hyaluronoglucosaminidase)であるHYAL1, HYAL2,HYAL3遺伝子についても同様の発現解析を行ったが、いずれも差は認められなかった。 3.RT-PCR法を用いたCD44遺伝子の発現解析 ウェルナー患者と正常人のリンパ球由来細胞株を、コラーゲンコート済みのディッシュを用いて培養し、RNAを精製した。CD44遺伝子について24種類のプライマーを設計し、RT-PCR法による発現解析を行った結果、バリアントエクソン4から通常エクソン6を含む領域において、ウェルナー患者由来細胞株で特異的に発現量が高いアイソフォームを検出することができた。現在、このアイソフォームに含まれるエクソンを確認している。 本研究の結果は、ウェルナー患者由来細胞株におけるCD44遺伝子の発現異常が、皮膚の萎縮、老化などを促進させる可能性を示唆するものである。
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