かゆみと不可分にある掻破行動は臨床的にかゆみ→掻破行動→皮膚炎の悪化→さらなる痒みの悪循環を形成し、アトピー性皮膚炎などの痒みを伴う皮膚炎の形成、修飾に大きな役割を果たしている。これまでに我々はアレルギー性皮膚炎の良いモデルとして広く皮膚科学、免疫学の分野などで用いられているハプテン塗布による接触過敏性皮膚炎モデルを用いて掻破行動がその皮膚炎形成に多大な貢献をしていることと、網羅的遺伝子発現解析手法を用いて、免疫・炎症関連含む百数十の遺伝子産物が掻破行動に伴う皮膚炎の形成に関与していることを見いだした。最近のかゆみ研究の成果により多くの炎症関連因子がケラチノサイト刺激を介して神経成長因子の産生を促し、表皮内への神経伸長を誘導することがわかってきたが、執拗なかゆみを伴うアトピー性皮膚炎でもこの表皮内への知覚神経終末伸長が確認されている。表皮ケラチノサイトからの起痒物質やドライスキンによる様々な皮膚表面からの刺激に対して反応しやすくなると考えられており、表皮内神経伸長の制御とメカニズム解明は難治性の痒みを根源的なコントロールにつながることが期待されている。そこで今回我々はin vitroで神経伸長抑制効果が確認されているMEK1/2転写子阻害剤を用いて、マウスのハプテン反復塗布皮膚炎モデルにおける神経伸長と掻破行動を抑制できるかについて研究した。(結果)MEK1/2阻害剤は既知のタクロリムス(掻破行動と神経伸長をどちらも抑制する)と同様に表皮内神経伸長を抑制したが、掻破行動は抑制しなかった。(結語)本研究により、かゆみ・掻破行動は皮膚炎形成に貢献すること(竹内ら、既発表、投稿準備中)、かゆみ・掻破に深く関与する皮膚炎の表皮内神経伸長はハプテン反復塗布モデルにおいてMEK1/2シグナル系に大きく依存すること、しかしその表皮神経伸長の制御だけでは必ずしも掻破行動抑制に直接つながらないことが確認された(城戸ら、既発表、投稿準備中)。
|