研究概要 |
細胞内シグナル伝達系においてMAPキナーゼカスケードは細胞生存や増殖、分化など多くの生命現象に重要な役割を果たしている。我々は、そのコンポーネントの一つである Extracellular-signal-regulated kinase 5(ERK5)に着目し、慢性進行性腎炎における役割について検討した。ラットの片腎を摘出後、抗Thy 1.1抗体を投与することにより進行性メサンギウム増殖性糸球体腎炎モデルを作成した。腎炎ラットでは1-2週をピークとしたメサンギウム細胞(mesangial cell:MC)の反応性増殖後に、週数に伴い糸球体の細胞外基質(extra-cellular matrix:ECM)蓄積増加がみられた。免疫染色により同部位におけるERK5の発現が増加しており、ERK5が本モデルの慢性期におけるECM蓄積に関与していることが示唆された。さらに培養MCにERK5を標的としたsiRNAを導入し内因ERK5の発現をノックダウンすることによってそのメカニズムを検討した。ERK5標的siRNAを導入したMCでは、コラーゲン産生能力が低下し、逆にザイモグラフィーにおけるコラゲナーゼ活性はsiRNAの濃度依存性に増強していた。さらにERK5をノックダウンしたMCではI型コラーゲン、MMP-2, -9, TIMP-1, -2, -4のmRNA発現量は変化なかったが、MT1-MMPの発現が増加しているのが確認できた。ラット慢性進行性腎炎モデルにおいてERK5を介するシグナルはMT1-MMPの発現を抑制しコラゲナーゼの活性を阻害することによりコラーゲンの蓄積を誘導すると考えられた。ERK5シグナルを制御することによって腎炎の慢性病変形成を阻止する新たな治療法の開発が期待できると考えられた。
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