研究概要 |
分泌糖タンパクWntは皮膚・毛包の発生過程に重要な細胞間シグナルであることがわかってきている。これまでに我々は毛包形成に特に重要と考えられたWnt-10bに着目し,活性化リンパ球およびWnt-10b強制発現細胞株より得られるrecombinant Wnt-10bが,皮膚上皮細胞や毛乳頭細胞を用いたin vitro試験で毛包器官構成細胞への分化誘導や増殖能に重要な因子であることを明らかにしてきた。また,本研究計画の昨年度の成果として,マウス口髭毛包の器官培養を行った際,Wnt-10bは毛軸成長の促進因子として働くことを明らかにした。そこで本年度は,Wnt-10b以外の他のWntサブファミリーを用いて毛包器官培養を行い,毛軸成長における種々のWntの影響を調べた。 マウスの口髭より毛包器官を摘出し,Wnt-3a,Wnt-5a,Wnt-11,Wnt-10bを含む培養液で培養した結果,Wnt-10bで培養した場合,有意に毛軸の伸長を促進させた。いっぽうで,Wnt-3a,5a,11では,有意な伸長が認められなかった。Wnt-10bに関しては,毛包の細胞増殖を促進させるが,他のWntファミリー(Wnt-3a,5a,11)については毛包器官レベルでの成長促進因子としては働かないことが明らかとなった。また,毛包器官の凍結切片を作成し,免疫組織化学的に解析を行ったところ,Wnt-10bにより,間接的に毛包下部、毛母細胞の増殖を著しく促進させることが判明し,またそれらはβ-catenin経路(古典的経路)を介していることも明らかとなった。つまり,Wnt-l0bは毛包器官における特異的増殖、分化促進因子として働いていることが示唆された。
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