研究概要 |
我々の研究グループは,肺気腫治療の研究にとって基盤をなす肺気腫モデルとその評価方法の確立を検討している.肺気腫を自然発症し,なおかつ人の肺気腫のタイプに近いとされるpallid mouse(C57BL/6pa/pa)に着目している。pallid miceはbackcrossを繰り返すことによりC57BL/6J miceのbackgroundを獲得させたマウスである.このマウスでは、codon69の遺伝子変異によるpallidin蛋白の異常から血清alpha-1-ATの低下をきたすことにより血清中EICの低下が引き起こされ,肺気腫を発症する.この血清alpha-1-ATの濃度は類遺伝子型のC57BL/6J miceの約40%,同種異型のNMRIやBALB/cマウスの約50%の濃度であることが報告されている. 我々の研究グループが以前から着手していた,pallid miceのトレッドミルでの耐運動能力の解析では,Pallidマウスの現在まで報告されている組織学的な肺気腫の出現時期である12ヶ月齢よりも早期の6ヶ月齢より耐運動能に有意な低下が出現しはじめることを推察させる結果が出ている.肺気腫モデルの評価方法の確立のため,加えて,小動物用呼吸機能解析装置(BioSystem for Maneuvers, SFT3410 with AUT6100 series ; BUXCO, Wilmington, NC)を使用し,pallid miceの呼吸機能を解析した。オスのpallid miceとC57BL/6J (control) mice(3,6,12,15,18ヶ月齢)を使用.キシラジンとケタミンの腹腔内投与による麻酔後、気管切開を施行し、麻酔状態の安定した時点において測定を開始. 結果:ヒトの肺気腫に特徴的なRV, FRCには全月齢を通して有意な差は認めなかった。TLC、FVCは月齢が増えるにつれ増加する傾向を認めるも、有意差は出ていない。VC Complianceは6ヶ月齢以降,有意にpallid miceが高値であった。形態学的変化の出現時期よりも、より早期よりComplianceは高くなることには留意しなければならない。ヒトの一秒率と対比するパラメーターとしてFEV20msec/VC(Tiffeneau index)の値は,両群ともに月齢を追うごとにその値は小さくなる傾向があり、pallid miceは18ヶ月齢まで漸減していく。そしてこのパラメーターも6ヶ月齢以降controlと比較して有意にpallid miceが低値となった.また体重も詳細に測定した結果,Controlは12ヶ月齢まで栄養状態良好で,体重は増えていくが,pallid miceは6ヶ月齢以降伸びがなく,12ヶ月齢以降で有意に小さい結果であった. 肺気腫の評価は形態学的評価(mean linear intercept)のみでは十分とはいえない。我々の結果よりpallid miceの機能的(耐運動能,肺機能)評価を加えることで,肺気腫の評価に用いることが可能であると考えている.
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