研究概要 |
脊髄損傷は,臨床医学の進歩に伴い生命予後が良好になってきたものの,高頻度に出現する二次障害と機能回復の限界から,神経幹細胞を基軸とした細胞移植による神経再生医療に大きな期待が寄せられている。その移植用いる神経系細胞の供給源として,増殖能と分化能に優れた胚性幹細胞(ES細胞)は非常に有望である。これまでに,げっ歯類(マウス)および霊長類(カニクイザル)のES細胞から,神経幹細胞とニューロンを短期間で大量に調製できる独自の新規培養法を確立した。本研究では,新規培養法の手技に基づき,霊長類カニクイザルES細胞から神経幹細胞を大量調整した。調整した神経幹細胞は,凍結保存により神経系細胞への多分化能に問題がないことを確認し,移植細胞用細胞として保存することが可能であった。また,近年アストロサイト移植が,in vivo での脊髄損傷後の機能回復に効果的であったとの報告が多くなされており,我々は,神経幹細胞に加え,アストロサイトへのin vitro での分化誘導を試み,その培養法を確立することに成功した(NeuroReport.2006;17:1519-1523)。脊髄損傷モデルの作製は,NYU インパクターの器材購入に難渋したため,従来の重錐落下去での圧挫損傷モデルの作製を試みた。しかし,モデル動物の損傷程度の定量性欠け,現時点では,本培養法で得られた神経系細胞の移植条件の検討とその効果についての再現性のある十分な結果は得られていない。今後,更なる継続的な研究が必要である。
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